50代を過ぎてこそできる日本語の教え方

日本語教育

英語より大切なもの

皆さんは『やさしい日本語』という言葉を知っていますか?

「日本語教師をしています」と言うと、

「英語話せるんですね。」とか

「何か国語しゃべれるんですか?」など尋ねられることがあります。

「いいえ。私は何か国語どころか、英語も満足に話せません。」

幾度となく英語の勉強はしましたが、

まったく続かず、たくさんの本が積読(つんどく)状態になっています。

ですから、私のレッスンはほとんどが日本語で教えています。

もちろん、多少の英語は用いますが、

日本語教師には、実は英語よりも大事なものがあるんです。

それが『やさしい日本語』です。

日本語を知っている私たちは、普段何気なく、

「今日は定時に終わる」とか

「今日は残業がある」なんて言うように

漢字ふたつの『漢語』をよく使いますよね。

実は日本語が少し話せる外国人にとって

これが難しいんです。

漢字圏の学習者さんは、

もちろんすぐに分かるのですが、

非漢字圏の学習者さんには

「定時」→「決まった時間」

「残業」→「残って仕事をする」

と言い直すと「スッと」入るんですね。

これが『やさしい日本語』の力なんです。

私も学習者さんと関わっていると、

「もう少し伝えやすい言い方がないかな」

「もっと分かりやすく言えないかな」と、

そんなふうに感じる場面に何度も出会います。

意味は理解できるはずなのに、

単語が耳慣れなくて

不安そうな表情をしていたり、

反応に少し間があったり、

うなずきながらも緊張していたり…。

そういうとき私は、

これは「日本語自体の難しさ」ではなく、

“伝え方” が悪くて相手の負担になっていると感じて、

言い直すことがあります。

だからこそ、

『やさしい日本語』を身につけることが、

英語を身につけるよりも大切になるのです。


『やさしい日本語』とは

『やさしい日本語』と聞くと、

“レベルを下げた日本語”

“幼児向けの話し方”

そんなイメージを持つ人も少なくありません。

でも実際はそうではありません。

『やさしい日本語』とは──

難しい言葉をそぎ落とし、

相手が理解しやすい形に整えた、

思いやりのあるコミュニケーションの方法 です。

相手を幼く扱うわけでも、

上から「分かるようにしてあげる」わけでもありません。

「分かりなさい!」ではなく、

「分かってもらいたい」

その姿勢が、

『やさしい日本語』の根っこにあるのだと思います。


意識したい3つのポイント

『やさしい日本語』は、特別なテクニックではありません。

今日からできる、シンプルだけど大切な工夫の積み重ねです。

① 短く話す

長い説明は、それだけで相手の脳に大きな負担をかけます。

一文が長くなると、日本語を母語としない人にとっては

「どこが大事なのか」が分かりにくくなります。

 ・一文を短くする

 ・途中で区切る

 ・ワンテーマ・ワンセンテンス

これだけで伝わりやすさは大きく変わります。

② 順番を整理する

私たちは母語話者なので、

「なんとなく」で話しても伝わることが多いです。

しかし、学習者には「話の順番」も大事な情報です。

1.結論 ⇒ 2.理由:

  1. 「今日は外に出ないほうがいいです。(結論)」
  2. 「なぜなら、風が強いからです。(理由)」

1.お願い ⇒ 2.方法:

  1. 「これをコピーしてください。(お願い)」
  2. 「あそこにコピー機がありますから。(方法)」

1.状況 ⇒ 2.対応:

  1. 「今、エレベーターは壊れています。(状況)」

  2. 「だから、今日は階段を使ってください。(対応)」

この順番で伝えてあげるだけで、理解への負担がぐっと軽くなります。

これを逆にしてしまうと、

「今日は階段を使ってください。」

「えっ、なぜ。いつもエレベーターなのに??(混乱)」

となってしまいます。

③ 難しい言葉を言い換える

専門用語や抽象的な言い回しは、

想像以上に理解を妨げます。

例えば、

「対応してください。」⇒「お願いします。○○をしてください。」

「検討します。」⇒「少し考えます。」

難しい言葉を使わないことで、

相手の尊厳が下がるわけではありません。

むしろ、相手が安心して話せることで

距離が近づくと私は感じています。


50代,60代だからこそできる『やさしい日本語』

私は、50代以降の人ほど

『やさしい日本語』に向いていると思っています。

もちろん、若い人には無理と

言っているわけではありません。

ただ、長く生きてきたからこそ、

人の痛みや弱さに自然と目が向くようになる。

経験してきた「困ったこと」や「悩んだ時間」が

たくさんあるからこそ、

目の前の人の戸惑いを想像できる。

人生経験からにじみ出る“やさしさ”が

言葉に宿ると思うからです。

そしてその根っこに、

私は「共育」── 共に育つという考え方を

いつも感じています。

私たち教師はともすると、上から目線で

「教えてやる」存在になることがあります。

しかし、実は教師も学習者さんから何かしら学んでおり、

共に育つ関係なのだと思います。

『やさしい日本語』は、まさにそのための

コミュニケーションツールだと思うのです。


今日からできる小さな一歩

『やさしい日本語』は、特別な人だけが使うものではありません。

トレーニングを積んだ専門家だけの技術でもありません。

今日から誰でも始められます。

いくつかのキーワードを意識さえすれば。

・はっきり言う(あいまいに言わない)

・最後まで言う(文末までしっかり言う)

・短く言う(一文を短く切って言う)

たったこれだけで、

目の前の外国人の表情が少し柔らかくなったり、

反応がスムーズになったりするものなのです。

ぜひ、あなたもトライしてみてください。


おわりに

『やさしい日本語』は、

『正しい日本語』というよりも、

『伝わる日本語』を大切にする考え方です。

そしてそれは、外国人だけではなく、

日本人同士のコミュニケーションにも役立つ力です。

やさしい言葉は、人を守ります。

『やさしい日本語』は、人と人をつなぎます。

50代、60代だからこそできる、

温かい日本語の伝え方を身につけて、

あなたも新しい道にチャレンジしてみませんか?

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